2015年11月6日金曜日

条約を結んでは破棄するといった歴史

ケインズ流の経済政策は超インフレと高い失業率を解消するのに極めて有効であったし、その初期の軍事的成功はドイツ人のナショナリズムの高揚と利権拡大に大きく寄与したことは否めない。だが、ドイツの敗色が濃くなり、バラ色の未来から一転して悲惨な現実が突きつけられるようになると、ドイツ国民はヒトラーに疑念を抱くようになる。前線の兵士から母親のもとへ「僕たちはヒトラーにだまされていたんだ」という手紙が届いたり、ドイツ国防軍によるヒトラー暗殺の動きも出てくる。つまり、契約で約束された内容と現実がまったく違っている、契約違反ではないか、という疑念が芽生えたのである。契約はもしその内容にうそや違反があれば、なんら良心の呵責なしに、無節操とのそしりも受けずに破棄できるのである。だからこそ、西欧列強は条約を結んでは破棄するといった歴史を繰り返してきたのだ。

破棄する理由など探そうと思えばいくらでも見つけられるし、理由さえあれば何の躊躇もいらないのである。ましてナチスはアウシュビッツ隠しをはじめとして言い逃れできないうそや暴挙を行なっていたのであるから、ドイツ国民もまた何の躊躇もなく「自分たちはヒトラーにだまされていた」という理屈で堂々と自己正当化できるのである。ドイツ国民はヒトラーとの契約を虚偽であるとして破棄して、戦後新たに西ドイツ国民はアデナウアーとの間に、束ドイツ国民はウルブリヒトとの間に契約を結んだわけだ。むろん契約内容は前者が自由主義、後者が共産主義である。しかし、共産主義の契約内容は虚偽であるとして、それを破棄して西ドイツに逃げ出す国民が多数いたことは周知の事実である。