2016年1月8日金曜日

軽井沢での同友会セミナーの波紋

一九九六年七月末、涼しい軽井沢のホテルでひらかれた経済同友会の夏季セミナーは、かなり話題になった。宮内義彦オリックス社長が、遠慮のない批判を建設省に浴びせたからだ。財界首脳の集まりといえば、景気対策で公共事業を中心とした補正予算を要求する大合唱となりがちだというイメージがある。財界にとって、公共事業予算の最大の勧進元である建設省ほど大切な官庁はないはずだ。

だが、宮内はこういったのだ。「公共事業の七割ぐらいが建設関係だが、もう、することがなくなっているのではないかとの印象をもっている。建設省は政策官庁の部分と技官との部分に分けて、建設省を政策官庁に変えるという課題は、大蔵改革と同じくらい重要ではないか」。

大蔵省をめぐっては、住宅金融専門会社(住専)の不良債権処理のために、税金からの六千八百五十億円にのぼる支出を決定したことにからんで、検査・監督部門の分離・独立が政治課題になっていた。一部の政党からは、「大蔵省の権力の源泉である予算編成権を首相官邸に移せ」という議論まで出ていた。宮内の発言も建設省解体論とも受け取れるほどの衝撃を与えた。

この発言は遠慮のなさで異例だったが、実に的を射ていた。道路局、河川局など膨大な公共事業の企画・実施部隊をもつ建設省では、技官が強い発言権を握り、「技官たちは自分たちの仕事をつくるために次から次へと新しい計画を持ち出してくる」という批判が、事務系キャリア組の一部でもささやかれるほどだった。技官を切りはなして、建設省を政策官庁にということは、まさに建設省の解体論と受け取られても仕方がなかった。